『官能教育』第7回 三浦直之 × 堀辰雄『鼠』

『官能教育』第7回  三浦直之 × 堀辰雄『鼠』

『官能教育』第7回 三浦直之 × 堀辰雄『鼠』

12月9日(月)19:30&22:00
12月10日(火)19:30&22:00

新世界(西麻布)


テキスト:原作:堀辰雄

構成・演出:三浦直之ロロ

出演:望月綾乃三浦直之

音楽:野口順哉(空間現代)

 

少年の秘密の時間を扱った堀辰雄の短編を、ロロの三浦直之が大胆な妄想でほどき、性の目覚めの物語へと紡ぎ直します。
自らが俳優として出演し、同じくロロの望月綾乃と1対1で、官能の迷宮に身を置きます。
真の脱ボーイ・ミーツ・ガールとなるか、ボーイ・ミーツ・ガールの果てのエロス発見となるか。
音楽は空間現代の野口順哉が担当、さらなる艶めきをライブで醸し出します。
ご期待ください。

エロと鼠のこと

「エロいとおもう小説でリーディング公演をおこなってほしい」

 って言われて、最初は結構悩んでしまった。僕は「エロ」っていうのが正直よくわからない。なにがわからないかっていうとまずセックスがわからない。まあこれは僕が童貞だからなんだけど。あと、オナニーもよくわからない。小学生の頃に好奇心でやったっきりでそれ以降は一度もやっていない。だからきっと僕はおちんちんのことをよくわかっていないんだとおもう。クレヨンしんちゃんのしんのすけがおちんちんを象って呼ぶのと同じレベルの認識しかたぶんない。

 だからって性欲がないというわけではなくて、人並みに性欲はあるし、おっぱいなんかは人並み以上に好きだ。大好きだ。大好きだ大好きだ大好きだ。
 僕はオナニーをしないかわりにしょっちゅう夢精が起こるのだけれど、その夢の中には大抵おっぱいが登場する。登場の仕方は毎回違って、普通に女性のおっぱいのときもあれば、おっぱいが単体で宙に浮いていたり壁に張り付いているときもある。でもラストシーンは基本的に僕がおっぱいに触るシーンで終わる。いつだったか、おっぱいでロッククライミングしたこともあった。無数のおっぱいたちを鷲掴みながら頂を目指し、でも結局頂上には到達できず、素寸前のところで力つき、落下しながら夢精した。
 夢の中ですらセックスできず、おっぱいに触ることが限界っていうはなんとも情けないけど、まあとにかく、僕はおっぱいが大好きなのだ。

 でも、そんな夢ばかりみてると、自分は「女性のおっぱい」が好きなのか、それとも「おっぱいそのもの」が好きなのか段々わからなくなってきてしまう。もし仮に僕のおっぱいが女性のそれのような膨らみと柔らかさを獲得したら、僕は、僕のおっぱいだって大好きなんじゃないか。むしろそっちの方が大好きなんじゃないか。っていうか、ほんとは、おっぱいの必要すらなくて、おっぱい的なものであれば僕はなんだっていけるんじゃないか。そういえば、でっかいメロンパンの中に閉じこめられて夢精したこともあったけど、あのメロンパンのやわらかさも、とてもおっぱい的だった。うーん、いや、というかというか、究極的には僕はおっぱいそのものになって、「おっぱいとしての僕」を僕に揉んでほしいんじゃないか。

 で、こんなことを前も考えたときがあって、それは堀辰雄の「鼠」という掌編を読んだ高校生のときのことだった。

 僕の高校は三年生になると土日も学校に行き、ひたすらセンター試験の過去問を解くことになるのだけれど、そのときの現代文で「鼠」が取り上げられていた時があった。
 初めて読んだときは、問題を解くのも忘れてめちゃくちゃ興奮した。ゆっくりゆっくり味わいながら言葉のイメージを頭の中に立ち上げていく。鼠、天井、黴のにほひ、石膏のヴィナス、マッチ、土竜、さめざめと、恍惚・・・。  あ、これは、エロいぞ。
 気づいたころにはもうテストは終了間際で、結局ほとんど問題をとけないままタイムアップになってしまった。テストが終わってからも僕は友人たちに延々と自分が「鼠」にどれだけ興奮したかを、いかに勃起したかを話し続けた。

 僕は、作品内で「彼ら」が遊ぶ場所によって「鼠のやうに」なったり「土竜のやう」になったりと変態していく様が気持ちよくてしかたなかった。自らの意志で、能動的に姿を変えるんじゃなくて、空間や状況によって本人も気づかないまま無理矢理姿を変えさせられてしまう感覚。僕にとって、「エロ」ってたぶんこれのことだ。自分の知らないうちに物語が変容して、物語が変容したことで、自分の存在も変容する、そういうプレイってとってもエロい。
 それから「鼠」のラスト。少年がお母さんそっくりの石膏とキスするシーン。これもエロい。これのどこが一番エロいかって、この少年がキスをする少し前にお父さんのことを考えているっていう点が抜群にエロい。つまり、少年はお母さんそっくりの石膏とキスをしている最中、頭の片隅にお父さんがいたはずで
「ちょ、ちょっとママ、だめだよ、パパが、心配、ああん・・・。ママ、パパが、ああん、んあああん!ママ!ママ!!」
となりながら射精したのだ。エロい。このラストはやっぱりとってもエロい。

 でも、高校生の僕は、最初読んだとき、石膏の顔がお母さんであることに少し不満も感じていた。
 僕はこの作品を少年の視点だけじゃなく、石膏の視点でも読んでいたんだとおもう。僕は石膏としてこの物語に参加していて、石膏の自分がバラバラにされたり接ぎあわされたりすることに興奮していた。石膏の視点で鼠みたいな「彼ら」や少年を観察するのが楽しかったのだ。
だから、ラストの石膏はどうかどうか僕であってほしかった。それなのになんか突然お母さんがやってきて、石膏の顔面を横取り、少年とキスをしたので、僕は不満に思ってしまったのだ。
 僕は石膏の僕とキスしたかった。お母さんとのキスだってエロいけど、できればお母さんには僕と石膏の僕とのキスをやさしく見守っていただきたかった。めちゃくちゃな言い分だけど。

  というわけで、官能教育では、堀辰雄「鼠」を上演することにしました。果たして僕は石膏になれるのか!? そして、石膏と僕はキスすることができるのか!? それともやっぱりお母さんとキスしてしまうのか!?
 ご期待ください。 

三浦直之


『官能教育』第7回 三浦直之 × 堀辰雄『鼠』

12月9日(月)19:30&22:00
12月10日(火)19:30&22:00

*開場は30分前です。

会場:新世界(西麻布)

料金:2,500円(全席自由)+ドリンク代


問い合わせ:Produce lab 89 ☎ 090-8308-4433